タミフル耐性インフルエンザウィルスを検出

ふくいわ耳鼻咽喉科クリニックでは、インフルエンザウィルス感染症の早期診断を目指す目的に、2013年12月より高感度分析装置を導入して臨床活用しています。

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富士ドライケムIMMUNO AG1

富士フイルム株式会社にて開発された、高感度ウィルス検出装置「IMMUNO AG1」です。熱発して6時間以内の感染初期における検査感度が飛躍的に改善しており、従来の迅速診断キット法との比較試験では、検出感度が約16倍も向上したと報告されています。

 

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写真現像技術の応用で検査試薬が約100倍に増幅され高感度を実現。

詳細については以前の院長ブログでもご報告いたしております。
院長ブログ「Triple B」-「インフルエンザの高感度検査装置を導入」

2016年はインフルエンザウィルスの流行がスギ花粉症飛散時期と重なり、特にこの2,3月は当院外来も大混雑となりました。

そんな中、2016年3月28日に受診された患者様(2歳男児)が、とても気になる症状を呈しておりました。以下に経過を記載します。

3月19日 40度の発熱あり。
3月20日 近医受診。鼻汁からの迅速診断にてインフルエンザウィルスA型と診断される。同日から抗ウィルス薬「タミフル」内服開始。
3月21日 解熱。以後は自覚症状も改善。
3月24日 タミフル内服終了。隔離期間も解除され通常の生活へ(いったん治癒と診断)。
3月28日 朝方から38.4度の発熱あり。同日午前に当院受診。

当院受診時の自覚症状としては発熱のみで、他に訴えはありませんでした。急性中耳炎や急性扁桃炎などの、高熱の原因となるような疾患は認められませんでした。

この時点でインフルエンザウィルス感染症の再燃を疑い、すぐに鼻咽腔液を採取してIMMUNO AG1によるウィルス分析を行いました。

その結果、インフルエンザウィルスA型が検出されました。

IMMUNO AG1では、ウィルス量が十分な場合、およそ5分で結果報告が行われます。この時点でウィルスが検出されない場合、高感度増幅プロトコルが開始され、検査開始から15分で最終診断が行われます。

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「A:(+)B:(-)」と表示された場合は、ウィルス量が少ないため高感度増幅法によりウィルスが検出されたことを示します。一方ウィルス量が多い場合は、「A:+ B:*」と表示されます。上記の写真例では「ウィルス量が少ないため高感度増幅法によりA型と診断された」ことを示しています。

そして今回の患者様では報告結果が「A:(+) B:(-)」でしたので、「ウィルス量が少ないため高感度増幅法によりA型と診断された」というパターンです。

以上の結果より、院長は下記の仮説を立てました。

「インフルエンザウィルスA型に感染して、抗ウィルス薬タミフルを使用したことで一時的にウィルスは減少したが、タミフルが効かない変異型=タミフル耐性ウィルスが存在していたため、ウィルスが完全に死滅せず再増殖してインフルエンザウィルス感染症を再発した。」

タミフル耐性インフルエンザウィルスというのは、2014年1月に北海道札幌市で初めて検出されたウィルスです。国立感染症研究所の調査により、遺伝子解析を行うとH275Y変異を認める点が特徴とされています。その名の通り、遺伝子突然変異の影響で治療薬タミフルが効かないため、その治療には十分注意する必要があります。

残念ながらこの「タミフル耐性ウィルス」を検出することは、一般医療機関では不可能であり、鹿児島県では環境保健センターが唯一の検査機関となっています。

そこですぐに南さつま市を管轄とする加世田保健所に連絡を取り、状況を説明しました。保健所担当官によりますと「鹿児島県ではこれまでタミフル耐性ウイルスの検出は報告がない」ということでしたが、臨床経過からタミフル耐性ウィルスの存在が考えられることをお話ししたところ、すぐに環境保健センターでの調査を開始して頂けることとなりました。

そして4月4日、保健所担当官から下記の如くご連絡頂きました。

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院長が懸念していたことが残念ながら的中し、「H275Y変異を持つウィルス=タミフル耐性ウィルスが検出された」という結果でした。ちなみにA/H1N1pdm09とは、2009年に大流行したインフルエンザウィルスA型、当時「新型インフルエンザ」と言われたウィルスのことです。「pdm」は「パンデミック=世界的大流行」の略です。

今回当院にて検出された耐性インフルエンザウィルス「A/H1N1/pdm09 H275Y耐性変異株」ですが、やはり鹿児島県内では初の報告例となります。保健所でも今後調査をすすめていくとともに、各医療機関への注意を喚起するということでした。

早速4月6日には、南薩地域感染症危機管理情報ネットワーク(NICE)にて、タミフル耐性ウィルスが検出されたことが報告されました。

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南薩地域感染症危機管理情報ネットワーク(NICE)・PDFはこちら。

NICEは南さつま市公式ウェブサイト「感染症の流行情報 2016年」にて閲覧可能です。

幸いなことに、この患者様はその後大きな合併症もなく解熱し、既に改善傾向を認めております。加世田保健所の調査によりますと、現時点で周辺地域におけるインフルエンザ感染症の集団発生は認められないとのことで、まずは一安心しております。

タミフル耐性ウィルスに関して、他の治療薬である「リレンザ」への耐性化はこれまで報告がないことより、重症化のリスクがある患者グループ(高齢者、心疾患、腎疾患、糖尿病合併例)では「リレンザ」を選択するのも有効な方法とされております。

ただ最も考えねばならないことは「タミフル乱用によるインフルエンザウィルスの薬剤耐性化」という問題だと思います。タミフルの予防的投与や、迅速検査陰性例での投与については、上述した重症化リスクのあるグループでは必要な方法ですが、それ以外のグループ(合併症のない成人など)ではタミフル服用に関して慎重な適応判断が必要だと改めて感じました。

以上、今回当院で経験した「鹿児島県内で初のタミフル耐性インフルエンザウィルスを検出」に関する報告速報でした。

なお今回の報告に関しては、事前に加世田保健所及び鹿児島県健康増進課へ問い合わせの上「個人情報を特定する情報がなければ、疫学的啓蒙の観点からインターネットでの情報公開を許可する」という御承認をいただきました。この報告が、インフルエンザウィルス感染症治療へ寄与することができれば幸いです。また今後、学術的検討を重ねて学会報告などを行い、地域医療に貢献する医師としての責任を果たす所存です。

 


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