かぜ症状(扁桃炎、上咽頭炎・喉頭炎など)
鼻水がでる、のどが痛い、などのかぜ症状は、日常生活で最も多く経験するものだと思います。耳鼻咽喉科専門医は鼻やノドの粘膜を詳細に観察して診断することを専門としており、かぜ症状の診察は最も得意とする分野です。
かぜ症状の原因は?
かぜ症状を起こす病気のうち、ウィルスが原因で発症するものをかぜ症候群といいます。よく知られているインフルエンザウィルス感染症もかぜ症候群の一種とされています。ウィルスには多くの種類があり、季節ごとに流行する種類が異なりますが、その多くは1週間以内の経過で治癒していきます。逆に1週間以上かぜ症状が続く場合、かぜ症候群以外の原因を考える必要があります。
かぜ症状が1週間以上続く場合は?
ウィルスが原因で発症するかぜ症候群では抗生剤治療は無効であり、対症療法、すなわち体内の免疫細胞がウィルスを退治してくれるのを待つことが必要です。
それに対して、細菌感染が発症している場合は抗生剤による除菌治療が必要となります。口蓋扁桃に細菌感染が起こって発症する急性扁桃炎は特に気を付けなければならない病気で、かぜ症候群だと思って放置していると、細菌感染が重症化して咽頭粘膜に広がってしまう場合があります。そしてそこに膿(うみ)が溜まると扁桃周囲膿瘍という危険な合併症を引き起こしてしまいます。これは気道を圧迫することで窒息、そして生命の危険にもつながるとても怖い病気です。
このようにかぜ症状と細菌感染を鑑別することは大変重要なことです。
かぜ症候群と区別すべき病気
- アレルギー性鼻炎
- 急性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)
- 急性扁桃炎
- 上咽頭炎
- 喉頭炎
かぜ症状を診断する方法は?
上で述べたように、かぜ症状を起こす病気は単なるかぜ症候群の他にもたくさんあります。的確な診断をするためにまず必要なことは、上気道の粘膜をしっかりと診ることです。
上気道とは、呼吸をする時に空気が通る道のことで、鼻から気管までを指します。具体的には、鼻・副鼻腔、上咽頭(鼻とノドのつなぎ目)、口腔(舌や頬粘膜)、中咽頭(ノドチンコや口蓋扁桃)、喉頭(声を出す声帯など)、下咽頭(咽頭と食道のつなぎ目)、気管(喉頭と肺のつなぎ目)がすべて上気道に含まれます。これらの部位全てを詳細に診察することではじめて、かぜ症状の診断を的確に行うことができます。
上気道の中には直接目で見えない部分も含まれます。そこで役に立つ診察器具が「鏡」です。耳鼻咽喉科では古くから使われる最も基本的な医療器具ですが、今でも多くの情報を与えてくれる大変有効な武器です。上咽頭や喉頭・下咽頭は口を覗いただけでは見ることができませんが、後鼻鏡や間接喉頭鏡などの鏡を使って反射させることで、しっかりした診察が可能です。
より詳細な観察が必要な場合は電子内視鏡による上気道粘膜の検査を行います。また副鼻腔炎(蓄膿症)がないかどうか調べるために顔面レントゲン検査を行う場合があります。
このように一言で「かぜ症状」といっても、その診察は実は大変奥が深く、高度な医療技術が必要とされる分野だと思っています。
かぜ症候群とアレルギー性鼻炎の違いは?
かぜ症状が1週間以上続く場合、アレルギー性鼻炎を疑う必要があります。アレルギー性鼻炎の三大症状は「くしゃみ、鼻水、鼻つまり」ですが、それ以外にも「のどの痛み、セキ、頭痛、微熱」などの症状を起こすことがあり、これらはすべてかぜ症状と共通しています。そのため症状の問診だけでは区別することができません。必要な診断方法としては、鼻水を顕微鏡で観察してアレルギー性鼻炎に特有の好酸球が検出されるか調べる鼻汁スメア検査が有用です。また鼻粘膜を観察して蒼白に腫れている場合はアレルギー性鼻炎の疑いがあります。鼻汁中に好酸球が検出された場合、血液検査でアレルギーの原因を調べることが重要となります。
かぜ症状に抗生剤は必要か?
かぜ症状の原因がかぜ症候群であれば、抗生剤は使用しません。かぜ症候群はウィルス感染が原因であり抗生剤は効かないためです。下手な抗生剤の乱用は効果がないだけでなく、抗生剤が効かない細菌(耐性菌)を増加させる危険があり、一度耐性菌が繁殖してしまうと多くの合併症が起こり治療も難渋してしまいます。
一方かぜ症状の原因が副鼻腔炎や扁桃炎など細菌感染の場合、抗生剤による治療が必要となります。抗生剤にも多くの種類があり細菌の性質によって使用法が異なりますので、どのような細菌が感染しているか診断することが大切です。
かぜ症候群ではなくてアレルギー性鼻炎の場合は、抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド薬などアレルギー治療薬を使用します。ちなみに総合感冒薬(いわゆる風邪薬)にはアレルギー性鼻炎の治療薬である抗ヒスタミン薬が含まれている場合が多いため、アレルギーの方が感冒薬を服用するとよくなる場合が多いです。感冒薬を飲み終わってかぜ症状がぶり返す場合は、アレルギーの存在を疑う必要があります。
かぜ症候群の原因がインフルエンザウィルス感染症である場合は、抗ウィルス剤を使用する必要があります。ただし発症後48時間以内の使用に限定されているため、インフルエンザウィルスの早期診断が必要となります。
インフルエンザウィルスの検査方法は?
当院では、インフルエンザウィルス感染症を早期発見するために、高感度ウィルス検出装置を導入しています。
富士ドライケム社製のウィルス分析装置「IMMUNO AG1」です。
インフルエンザの発症初期はウィルス量が少ないため、従来の迅速診断キットでは正しく診断することができず、熱が出ても半日以上は検査せずに待つ必要がありました。
当院で導入したIMMUNO AG1は、写真現像技術の応用で検査試薬が約100倍に増幅されるため、高感度検査を実現しています。高感度化されたことで、従来の迅速診断キット法との比較試験では、検出感度が約16倍も向上したと報告されています。
さらに、熱発して6時間以内の感染初期における検査感度も飛躍的に改善しており、「まだ熱が出たばかりなので検査するには早すぎます」という問題の打開策にもなり得ると思われます。
耳鼻咽喉科は「鼻やノドの粘膜変化から病気を探り出す」という診断能力を専門としています。そのため、風邪やインフルエンザなどの「上気道感染症」は最も得意とする分野です。当院では「上気道粘膜の微細な変化を診断する」医療技術に加えて、最新の高感度検査装置を併用することで、インフルエンザ感染の早期診断と重症化の防止を目指します。