最後の定期受診
同じ職場で12年も働いていると御付き合いの長くなる患者さんも増えてきます。
今日は自分の担当する予約外来の最終日でした。
今の職場は諸事情により基本的に主治医制ではなく、毎回違う医師が診察することを予めご了承いただいているのですが、その中でご希望の方には可能な限り毎回自分が診察させてもらうように予約を組んできました。医師不足の昨今では医師が主治医制を望んでも完全に実現することは難しいのですが、できる限り患者さんと相談しながら日程を調整しつつ、急な手術や出張が入ったときには直接ご自宅に御電話して予約を変えてもらったりして、どうにかこれまでつづけてきました。
もちろん治療方針や問題点は他医師とカンファレンスを行い科長の判断を仰いで進めていきますので、予約外来といえども自分ひとりの診療ではなく、自分はあくまでも大学病院の一医師として診療科と患者さんとの窓口である、というスタンスでやってきました。
ですのでもし自分がいなくなっても患者さんの診療には一切支障がでることなく、他医師でもスムースに診療できるようしっかりとカルテを記載し検査データも電子化して閲覧できるよう常に気をつけてきました。
そして現実に引継ぎが必要となった今、上記の通り「次回から診察する医師の顔が変わりますが、診察内容や治療方針は全く変わりませんのでご心配されないでください」と説明を皆さんに申し上げました。
しっかり準備してきたつもりですが、それでも若干の問題がおきてしまいました。
。。。患者さんや、付き添いのご家族の方が「寂しくなるね」といって泣いてしまったのです。
泣かれたことが問題ではなくて、それを見て自分も泣きそうな気持ちになったことが問題でした。もうそれ以上、患者さんの顔を見ることができず、電子カルテのモニタを見つめたままで「それでは、お大事にされてください」と言うことしかできませんでした。
自分が新米医師で担当医を務めたときからの御付き合いで、家内と結婚したとき、子供が生まれたとき、アメリカに留学したとき、そして帰ってきて再びお会いしたとき、ずっと「よかったね、がんばんなさいよ」と声をかけてくださった患者さんもおられました。「最近顔が疲れてるから」と栄養ドリンクを渡してくれた方もおられました。
思えば、自分は患者さんとの会話で自分の気持ちを高めていた気がします。患者さんとの応対から、本当にたくさんのことを学びました。皆さんの人生とかかわりを持つことで、教科書や学会なんかでは決して得ることのできない、貴重な「生き様」を学びました。
皆さんの闘病生活において、自分は少しの手助けをしたに過ぎませんが、それでも自分が役にたったと思って頂けるのなら、心から「ありがとう」とお伝えしたいです。診察中には言えなくてごめんなさい。
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