コロナワクチン接種後の中和抗体測定

今回の目的

2021年3月から日本でも新型コロナウイルスに対するワクチン接種が始まっています。既にワクチン接種が普及している海外では、ワクチンの効果により感染者が減少している一方、変異株の出現によりワクチン効果が危ぶまれるような報告も散見されます。

当院院長は2004年5月から2005年9月まで、米国アラバマ大学バーミングハム校(The University of Alabama at Birmingham, UAB)免疫ワクチンセンター(International Vaccine Center, IVC)にて、博士研究員(Postdoctral fellow)としてワクチンの研究を行っていました。
(なおIVCは現在、Mucosal HIV & Immunobiology Centerに改編されています)

UABの研究室にて、2005年2月撮影。
(UABの研究室にて、2005年2月撮影)

かつてワクチン開発を専門としていた経験から、コロナワクチン接種後の効果を判定するべく、当院におけるワクチン接種後の職員を対象としてコロナウイルスに対する中和抗体を測定・検討しましたので報告いたします。

(注記)ワクチン研究を含めた過去の業績集は→こちらをクリック

 

コロナウイルスの分類

2019年までに知られていたコロナウイルスは6種類でした。うち4種類はヒトで流行する風邪の原因ウイルスであり、他の2種類は病原性が高く重症化しやすい肺炎の原因ウイルスです。具体的には2002年に中国から流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)、2012年に中東から流行したMERS(中東呼吸器症候群)と分類されています。

2019年12月に中国・湖北省武漢市で発生した原因不明の肺炎が、新たな病原性の高いコロナウイルスであることが判明し、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)と命名されました。SARS-CoV-2による感染症をCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)と呼びます。

コロナウイルスの分類

 

コロナウイルスの構造と2種類の抗体

コロナウイルスの表面にはたくさんのトゲがあります。これが太陽コロナ(太陽外側にあるガス層)に似ていることから「コロナウイルス」と名付けられた経緯があります。そしてこのトゲをスパイクタンパク質(S)と呼びます。
一方コロナウイルスの遺伝子を含む殻を、ヌクレオカプシドタンパク質(N)と呼びます。

Sタンパク質とIgG抗体(S)

Sタンパク質は、ヒトの細胞表面にある受容体(ACE2受容体)と結合します。その後ウイルス本体がヒトの細胞と融合し、コロナウイルスの遺伝子がヒトの細胞内に移行して感染が成立します。
ちなみに変異型ウイルスとは、Sタンパク質を構成するアミノ酸の1つが突然変異を起こしトゲの構造が少しだけ変わって感染しやすくなったものです。変異したアミノ酸の種類と番号によって、様々な変異型が存在します。
新型コロナワクチンはSタンパク質に対する抗体(IgG抗体(S))を生成するように設計されています。

Nタンパク質とIgG抗体(N)

Nタンパク質はSタンパク質と異なり突然変異が起きにくく、タンパク質自体が大きく判別しやすい構造のため、新型コロナウイルス抗原検査での検出目標タンパク質とされています。
新型コロナウイルスに感染するとNタンパク質に対するIgG抗体(N)、及び前述のIgG抗体(S)の両方が上昇されます。
しかし新型コロナワクチンを接種してもIgG抗体(N)が上昇することはありません。

新型コロナウイルスの構造
(アボット社の資料から抜粋)

このように新型コロナウイルスに対する抗体検査にはIgG(S)とIgG(N)の2種類があります。
ワクチンの効果を調べるためにはIgG(S)を測定することが必要です。その理由は「中和抗体」に関係します。

 

新型コロナウイルスに対する中和抗体とは

中和抗体とは、新型コロナウイルスとヒトの細胞が結合する箇所をブロックする抗体です。新型コロナウイルスへの感染や重症化を防ぐ効果が期待されています。
中和抗体とは
(アボット社の資料から抜粋)

上記の通り、中和抗体はSタンパク質とACE2受容体との結合をブロックする抗体です。そして中和抗体の活性(能力)は、Sタンパク質に対するIgG抗体(S)の値と相関することが報告されています。
(N Eng J Med 2020;383:2439-2450)

当院ではアボット社のIgG抗体定量検査(ARCHITECT SARS-CoV-2 IgG II Quant)にてIgG抗体(S)を測定していますが、この値が中和抗体活性と近似すると考えられています。またアボット社の抗体検査については感度99.35%、特異度99.6%と極めて高い制度であることが報告されています。

 

対象と方法

当院では2021年4月から6月までに医療従事者を対象としたコロナワクチン接種を完了しました。
使用したワクチンはすべて、ファイザー社/ビオンテック社製のmRNAワクチン「コミナティ筋注」(開発コード:BNT162b2)です。
今回抗体検査を施行した対象者は21人(当院職員、および近隣薬局職員)です。
2回目のワクチン接種から1週間以上経過したことを確認して、抗体を測定しています。
静脈血採血にて検体を採取して、鹿児島臨床検査センターへIgG抗体(S)測定を依頼しました。

 

結果

IgG抗体(S)の境界値は50AU/mLであり、0~50AU/mLは抗体陰性、50AU/mL以上は抗体陽性と判断されます。
今回当院で測定した21人全員において、IgG抗体(S)の有意な上昇を認めました。
コロナワクチン接種後の中和抗体(当院での検査結果)

2回目のワクチン接種から最短観察日数群は20日後で4名でした。抗体値の平均は17,128.3AU/mLでした。
最長観察日数は80日後で3名でした。抗体値の平均は4,977.4AU/mLでした。

このように2回目接種から約3か月近く経過した後でも、高いIgG抗体値を維持していることが明らかとなりました。

 

考察

培養細胞における中和試験

アボット社の報告では、実験室にて培養細胞を使って中和抗体活性を測定したデータがあります(2021年3月)。ウイルス量を50%まで減少させるプラーク減少中和試験では、IgG抗体が4,160AU/mLあれば95%の確率で高力価、つまりウイルスを有意に中和できたと報告されています。
ただしIgG抗体価が1,000AU/mLと低い場合でも、約62%の確率で高力価であることが示されています。

 

ワクチン接種後の抗体価

海外の報告では、ファイザー社/ビオンテック社製のワクチン接種後の抗体価について、1回目の接種後の中央値 2,217 AU/mL, 2回目の接種後の中央値 6,396 AU/mL と報告されています。
なお1回目のワクチン接種から採血までの期間は4~21日、2回目のワクチン接種から採血までの期間は1~27日と記載されていました。
コロナワクチン接種後の抗体価
J Clin Microbiology 2021

 

まとめ

当院にて新型コロナワクチン接種を行った21名について、IgG抗体(S)(中和抗体)を測定したところ、全員において良好な抗体価上昇を認めました。
ワクチンの効果判定を行うためには、アボット社のARCHITECT SARS-CoV-2 IgG II QuantによるIgG抗体(S)測定は有効な方法であり、測定するタイミングとしては2回目のワクチン接種から21日以上経過した後が望ましいと思われます。

なおIgG抗体(S)測定は自費診療となります。保険証は使用できません。

当院では6,000円(税込)にて中和抗体価測定を行っています。この費用には採血手技料、抗体測定料、レターパック送料が全て含まれます。
詳細は当院までお電話ください。

【ハッシュタグ】
コロナワクチン IgG抗体 抗体価測定 アボット 鹿児島 南さつま市 耳鼻咽喉科 耳鼻科

コロナワクチン接種後の抗体検査を行っています

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